逆流性食道炎とは、胃の内容物(胃液や消化されていない食べ物など)が食道に逆流して、食道の粘膜に炎症を起こす病気で、胃食道逆流症(GERD)とも呼ばれます。成人の約10〜20%が罹患していると推定されています。
分類
逆流性食道炎は、内視鏡で見た時に食道の粘膜に傷があるかどうかで、『内視鏡陽性型』と『内視鏡陰性型』に分けられます。『内視鏡陽性型』は、食道の粘膜に傷が見られるタイプで、約30〜40%の患者様が該当します。『内視鏡陰性型』は、食道の粘膜に傷が見られないタイプで、約60〜70%の患者様が該当します。
『内視鏡陽性型』の逆流性食道炎は、さらに傷の大きさや範囲によってLA分類というグレードに分けられます。LA分類はAからDまでの4段階で、Aが最も軽度でDが最も重度です。また、LA分類よりも軽い色調変化だけの状態をMと呼ぶこともあります。
原因
逆流性食道炎の主な原因は、胃と食道をつなぐ部分(下部食道括約筋)の弛緩や不全です。下部食道括約筋は、正常な場合は胃酸や胃内容物が逆流しないように閉じていますが、何らかの理由で開いたり弱くなったりすると、胃酸や胃内容物が逆流してしまいます。
下部食道括約筋の弛緩や不全を引き起こす要因としては、以下のようなものがあります。
- 肥満
- お腹に脂肪がつくと、お腹の圧力(腹圧)が高くなり、胃内容物が押し上げられて逆流しやすくなります。
- 加齢
- 年齢とともに下部食道括約筋の筋力や弾力が低下し、閉じる力が弱くなります。
- ヘルニア
- 胃と食道をつなぐ部分が横隔膜(お腹と胸を仕切る筋肉)を突き破って上にずれることを食道ヘルニアといいます。食道ヘルニアになると、下部食道括約筋の機能が低下し、逆流しやすくなります。
- 食事や生活習慣
- 脂っこい食事や過食、食後すぐに横になること、アルコールやタバコの摂取、ストレスなどは、下部食道括約筋を弛緩させたり、胃酸の分泌を増やしたりして、逆流性食道炎を悪化させます。
- 薬物
- カルシウム拮抗薬(高血圧や狭心症の薬)、亜硝酸薬(狭心症の薬)、抗コリン薬(胃腸の運動を抑える薬)、非ステロイド性抗炎症薬(痛み止めや解熱剤)などは、下部食道括約筋を弛緩させたり、胃粘膜を傷つけたりして、逆流性食道炎を引き起こす可能性があります。
- OSA(睡眠時無呼吸症候群)
- 睡眠中に呼吸が何度も止まることで、気道内の圧力が低下し、胃内容物が吸い上げられるようになります。これは逆流性食道炎の原因であると同時に、逆流性食道炎の合併症でもあります。
治療
逆流性食道炎の治療は、主に以下の2つの方法があります。
- 生活指導
- 肥満の改善、食事内容や量の調整、飲酒や喫煙の制限、就寝前3時間以内の食事や水分摂取の避けるなどの生活習慣の改善が重要です。また、枕を高くしたり、左側臥位で寝たりすることで逆流を防ぐこともできます。
- 薬物治療
- 胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどが主に用いられます。胃酸による刺激や炎症を減らし、粘膜の修復を促します。また、胃内容物の逆流を防ぐためにプロキネティック薬(胃腸運動促進剤)やアルジニン(下部食道括約筋を強化する成分)なども併用されることがあります。
検査
当院では、逆流性食道炎の診断のために、内視鏡検査を主に行っています。
- 内視鏡検査
- 胃カメラと呼ばれる細い管型のカメラを口か鼻から入れて、食道や胃の粘膜の様子を直接観察する検査です。この検査では、粘膜に傷があるかどうかやその程度を確認することができます。
合併症
逆流性食道炎を放置すると、以下のような合併症を引き起こす可能性があります。
- 食道潰瘍
- 食道の粘膜に深い傷ができることで、出血や貫通(穴が開く)などの危険な状態になります。
- 食道狭窄
- 食道の粘膜に傷ができると、その部分が瘢痕(きずあと)になって硬くなり、食道の管が細くなります。これにより、食べ物が詰まったり、飲み込みにくくなったりします。
- バレット食道
- 食道の粘膜が胃酸に耐えるために、胃や腸と同じような細胞に変化することをいいます。この変化は不可逆的で、一度起こると元に戻りません。バレット食道は、食道癌(特に腺癌)のリスクを高めます。食道癌は早期発見が難しく、予後も悪いため、定期的な内視鏡検査が必要です。
- 慢性咳嗽
- 逆流性食道炎は時に慢性咳嗽の原因となります。慢性咳嗽とは、2ヶ月以上続く咳のことです。逆流性食道炎による慢性咳嗽は、胃酸や胃内容物が食道や気管支に逆流して刺激を与えることで起こります。この刺激は、直接的なものである場合もあれば、神経的なものである場合もあります。逆流性食道炎による慢性咳嗽は、他の原因(喘息や副鼻腔炎など)と併存することが多く、診断が難しい場合があります。また、逆流性食道炎の典型的な症状(胸やけや呑酸など)がない場合もあります。そのため、内視鏡検査や24時間食道pHモニタリングなどの検査が必要になることがあります。
- OSA(睡眠時無呼吸症候群)
- 睡眠中に呼吸が何度も止まることで、睡眠の質が低下し、昼間の眠気や集中力低下などの問題を引き起こします。また、呼吸が止まるたびに血圧や心拍数が上昇し、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系の合併症も起こりやすくなります。
当院では、逆流性食道炎の治療を消化器専門医が主導しますが、OSAや慢性咳嗽といった合併症がある場合には、呼吸器専門医とも連携して総合的な治療を提供しています。何か不安やご質問がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。